山中に残る初期キリスト教建築の遺構
ジローナ県の奥深い山あいにひっそりと佇むサン・キルセ・デ・コレラ修道院(Sant Quirze de Colera)は、9世紀末に創建されたベネディクト会の修道院跡です。観光客が多く訪れる有名な修道院とは異なり、自然に包まれた静寂の中にあり、訪れる人は少数です。しかしその存在は、カタルーニャにおける初期キリスト教建築を知る上で欠かせない貴重な史跡となっています。
修道院はカロリング朝時代の影響を受けた建築様式で建てられました。ロマネスク建築が広まる以前の特徴を色濃く残しており、三身廊のシンプルな構造、厚みのある石壁、簡素なアーチが往時の姿を今に伝えています。現在は部分的に崩れ、廃墟に近い状態ですが、残された柱やアーチを目にすると、この場所がかつて宗教と共同生活の中心であったことを感じ取ることができます。華やかさはなくとも、むしろ素朴な石造建築の力強さが、時代を越えて見る者に強い印象を残します。


周囲は人里から離れた山中にあり、観光施設の整備は最小限にとどまっています。訪れる際にはわずかな距離ですが舗装されていない道を進む必要がありますが、その道のりこそが修道院の孤高の姿をより印象づけます。周辺は自然保護区のような環境で、放牧されている牛の姿が野生動物、山の植生を観察できることもあります。観光地化されていないため、喧騒から離れ、静けさの中で歴史と向き合える時間を過ごすことができるのも、この場所ならではの魅力です。

サン・キルセ・デ・コレラ修道院は、壮大な観光施設ではありませんが、カタルーニャの歴史を深く知るための手がかりを与えてくれる場所です。宗教と建築が結びついた初期の姿を肌で感じることで、後世に発展するロマネスクやゴシック建築を理解するための視野も広がるでしょう。静かな山中に残る石造の遺構は時間を超えた思索の場となるに違いありません。
Location / Address
17732 Rabós (Alt Empordà), Girona
photo:©plusroadtrip