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Església de Sant Climent de Taüll(サン・クリメン・デ・タウイ教会)
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Lleida, Section 3 (Lleida – La Seu d’Urgell)

Església de Sant Climent de Taüll(サン・クリメン・デ・タウイ教会)

ロマネスク美術の精華と共同体の記憶を今に伝える世界遺産

ピレネー山中の小さな村タウイに建つサン・クリメン・デ・タウイ教会(Església de Sant Climent de Taüll)は、ボイ渓谷に点在するロマネスク様式教会群の中でも最も名高い存在です。献堂は1123年12月10日とされ、その式典にはロダ‐バルバストロ司教が訪れ、聖遺物を奉納すると同時に、内陣の壁画制作を命じたと言われています。その結果生まれたのが、ロマネスク美術を代表する「栄光のキリスト(Christ in Majesty/Pantocràtor)」を中心としたフレスコ装飾です。

内陣上部の半円形ドームには、マンダルラに囲まれた全能のキリストが描かれ、手には聖書を持ち「私は世の光(Ego Sum Lux Mundi)」とラテン語で記された言葉が添えられています。その周囲には福音書記者の象徴である鷲、雄牛、天使、獅子が配され、中段には使徒や聖母、下段には貧者ラザロと富者の寓話やカインとアベルの物語が展開されます。善と悪、天国と地獄といった信仰上のメッセージを視覚的に伝える構成は、当時の人々に強い印象を与えたことでしょう。

現在、オリジナルのフレスコ画は保存のためバルセロナのカタルーニャ美術館(MNAC)に収蔵されていますが、教会内では最新のプロジェクションマッピングによって当時の彩色や構成を再現しています。暗がりの中で映し出される光の演出は、まるで12世紀当時の空間に立ち会っているかのような感覚を与えてくれます。

また、この教会は宗教施設としての役割にとどまらず、地域共同体の中心としても機能してきました。礼拝の場であると同時に、避難所や穀物倉庫、村人の集会所としても用いられ、信仰と生活の両面を支える存在だったのです。

建物自体も注目に値します。鐘楼は北イタリアの建築様式の影響を受けたデザインで、当時のこの地域の繁栄と交流の深さを物語ります。鐘楼同士が旗や松明を使って情報を伝えていたというエピソードは、山間の村に暮らす人々の知恵を今に伝えています。

20世紀初頭、モダニズム建築家リュイス・ドメネク・イ・モンタネールがカタルーニャ各地のロマネスク建築を調査し、その文化的価値を記録しました。1907年には彼の提唱を受けて「カタルーニャ学術院(Institut d’Estudis Catalans)」が設立され、ヴァル・デ・ボイの教会群も調査対象となります。その後、1919年から1921年にかけて、壁画の国外流出を防ぐためにアプスのフレスコ画が剥離され、バルセロナのカタルーニャ国立美術館へ移されました。そして2000年、ボイ渓谷にある9つのロマネスク教会群が世界遺産登録(ユネスコ)されました。

夜にはライトアップが施され、教会とその周辺は昼間とは異なる幻想的な雰囲気に包まれます。澄んだ山の空気とともに輝く鐘楼を見上げれば、まるで中世から時を超えて響いてくる信仰の息づかいを感じることができるでしょう。サン・クリメン・デ・タウイ教会は、単なる観光地ではありません。ここは中世の芸術、信仰、共同体の暮らしが凝縮された「生きた遺産」と言えるでしょう。フレスコ画の力強いメッセージと、村人たちの生活の記憶。その両方を同時に体感できる稀有な場所として、訪れる人を深い感動へと導いてくれます。

Location / Address

Església de Sant Climent de Taüll
Plaça de Santa Maria, s/n 25528 Taüll, la Vall de Boí (Alta Ribagorça), Lleida

photo:©plusroadtrip