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Besalú(ベサルー)
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Girona, Section 4 (La Seu d’Urgell – Figueres)

Besalú(ベサルー)

カタルーニャ北東部、ジローナ県の内陸に位置するベサルー(Besalú)は、中世の記憶を色濃く残す小さな町です。フルヴィア川の渡河点を押さえるかたちで築かれ、外敵の侵入を防ぐ要塞都市としての役割も担ってきたこの町は、9〜12世紀にかけて伯領の中心として栄え、宗教と交易の要衝として発展してきました。とりわけロマネスク文化が花開いた時代の建築や都市構造が良好な状態で残されており、町全体がひとつの歴史遺産のような佇まいを見せているのが特徴です。

そのベサルーの象徴とも言える存在が、中世の石橋ベサルー橋(Pont de Besalú)です。カタルーニャに残るロマネスク期の橋梁建築のなかでも、とりわけ印象的な橋として知られています。12世紀に建設され、洪水や戦乱で損傷しながらもその都度修復され、いまも旧市街と外界を結ぶ“現役の橋”として使われています。全長は約105m、川の蛇行に沿ってS字状にゆるやかに曲がる独特のラインが美しく、中央にはかつて通行管理や防衛を担った門塔が当時の姿をとどめています。

この橋を渡ると、中世の風景がそのまま残る旧市街が広がります。石畳の通りや修道院跡、城壁の名残が織りなす町並みは、まるで時が止まったかのような静けさをまとい、歩くだけで中世の世界へ迷い込んだような感覚を与えてくれます。近年ではアメリカのドラマ「ウエストワールド(Westworld)」シーズン3のロケ地となったことで、世界的な注目を集めました。しかし撮影地としての話題性以上に印象的なのは、舞台装置を必要としないほど完成された町の骨格そのもの。橋から旧市街へ続く導線、建物の密度、通りの幅。そのすべてが中世都市としての合理性と美意識を今に伝えています。

旧市街を進むと、視界がふっと開けるように現れるのが、町の中心となる大きな広場です。その一角に静かに佇むのが、ロマネスク様式のサン・ペレ教会(Sant Pere de Besalú)。重厚な石造りの外観と簡素な装飾は、宗教的権威を誇示するというより、町の日常に寄り添う存在として受け止められてきました。かつてこの広場は、市が立ち、祭礼が行われ、人々が集う共同体の中心でした。長い歴史を経た現在もカフェやお土産店などが並び、住民や観光客が行き交う街の日常風景になっています。

そしてもうひとつ、この中世都市の趣に現代アートが溶け込んでいるのも、この町の面白いところです。ロカフォルト通りには椅子をテーマにしたインスタレーションが掲げられ、旧市街の厳かな雰囲気の中に軽やかな遊び心を感じさせます。また町の外れには「平和の椅子(La Cadira de la Pau)」と呼ばれる彫刻が置かれ、ロマネスクの風景と現代アートが対話するような独特の景観をつくり出しています。歴史とアートの共存を自然のまま受け入れるのが、ベサルーという町の懐の深さです。

ベサルー橋を歩いて、門塔を抜け、旧市街に足を踏み入れると、そこには中世の時間と現代の創造性が幾重にも重なり合う、カタルーニャならではの魅力が息づいています。

Location / Address

Pont de Besalú
Carrer del Pont Vell, 17, 17850 Besalú, Girona

photo: ©plusroadtrip