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Mas Miró (マス・ミロ)
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Section 1 (Barcelona – Tarragona), Tarragona

Mas Miró (マス・ミロ)

ジョアン・ミロの創造の原点に触れる農家屋敷


モンロッチ・デル・カンプの田園風景の中に佇むマス・ミロ(Mas Miró)は、20世紀スペインを代表する芸術家ジョアン・ミロの創作の原点を今に伝える場所です。母方の祖父が所有していたこの農家屋敷で、ミロは幼少期から毎夏を過ごしました。現在は財団によって保存・公開され、彼の芸術世界と人生観を体感できる貴重な文化施設となっています。


敷地内には食堂や寝室を備えた母屋のほか、かつて家畜を飼っていた馬小屋やブドウ・オリーブの貯蔵庫も残されており、農家としての生活の記憶が色濃く刻まれています。陶器の水差しや旧式の冷蔵庫といった日用品からは、時代を超えて受け継がれてきた暮らしの知恵や工夫を垣間見ることができ、訪れる人の想像力を刺激します。

ミロにとって、この屋敷は単なる避暑地ではなく、自然と芸術を結びつけるインスピレーションの源泉でした。彼は「木々は私たちを見て、聞いている」と語り、オリーブの根や石ころといった自然物を作品に取り込んでいます。大地のエネルギーを足裏で感じながら創作する姿勢は、まさにこの場所で育まれたものです。


小さな礼拝堂や農具、動物小屋、さらには母屋のテーブルや道具までもが、後の作品に繰り返し登場するモチーフとなりました。これらは作品に描かれた当時のままの姿・場所で保存されており、ミロがどこに立ち、どのように世界を見ていたのかを追体験できる空間となっています。かつてパブロ・ピカソが「ミロは本物の芸術家だ」と評したという逸話も、この地を訪れればその意味が深く理解できるはずです。

スペイン内戦期、ミロ自身はフランスへと亡命しましたが、母と姉はこのマス・ミロに留まり、屋敷の大部分は共和国派によって接収されました。そうした困難な時期、彼が亡命先で制作したのが、後に代表作として知られる「星座(Constellations)」シリーズです。戦争と亡命の影の中にあっても、この農家と結びついた自然や記憶が創作を支え続けました。


マス・ミロでは、彼が実際に制作を行っていたアトリエも一般公開されています。ミロの意向で大きな窓が設けられ、自然光が降り注ぐ空間には、拾い集めた漂流物やラフスケッチ、模型や落書きまでが当時のまま残されています。浜辺で拾った木片や陶片が彫刻へと姿を変え、後にセメント作品として完成していく過程をここで目にすることができます。


マス・ミロは、農村の暮らしと自然、そして芸術が有機的に重なり合う「生きた美術館」といえる場所です。単にミロの過去を紹介するだけではなく、彼がこの地で感じ、かたちにした世界観そのものを訪れる人が体験することができます。本当にミロという芸術家を理解したいのであれば、バルセロナやパリの美術館に加え、この農家屋敷を訪れることが欠かせません。自然、家族、芸術のすべてが凝縮されたこの場所こそ、ミロの創造の出発点といえるでしょう。

Location / Address

Mas Miró
Finca Mas Miró, s/n 43300 Mont-roig del Camp (Baix Camp), Tarragona
Official Web Site: Mas Miró
火–土曜:10:00–14:00 / 15:30–18:00 | 日曜・祝日:10:00–14:00
月曜休館、11月〜イースター期間は平日午後休館

photo:©plusroadtrip