旧市街に佇む小さなチーズ工房、職人が紡ぐアルト・ウルジェイの食文化
ピレネー山脈の麓に位置するラ・セウ・ドゥルジェイ（La Seu d’Urgell）は、アルト・ウルジェイ地方の中心都市として、古くから牧畜と乳製品の文化が根付いています。旧市街の一角にあるフォルマッジャス・デ・ラバデッサ（Formatges de l’Abadessa）は、この地域の恵みと職人技が凝縮された小さなチーズ工房です。創業者でありチーズ職人のジュディ・カレイラさんは20年以上の経験を持ち、近隣の酪農家から仕入れる牛乳や山羊乳、羊乳を使い、それぞれの個性を生かしたチーズを丁寧に作り続けています。
Formatges de l’Abadessa では、ピレネー山麓で育つブラウナ牛と放牧山羊のミルクを使い、伝統的な製法で多彩なチーズを生産しています。代表的なものに、洗い皮タイプの「Fragua」や「Tometa」、自然な白カビに覆われた「Canonge」、青カビタイプの「Lluna Bruna」、スイス山岳風の熟成チーズ「Avi」などがあります。また、春から冬にかけて生産される山羊乳の「Cabraflor」や、強い香りを持つ「Mussa」など、個性的な味わいも揃っています。さらに、ピレネーの伝統的な発酵チーズ「Tupí」も手がけており、いずれも地元産ミルクの豊かな風味を生かした手づくりの逸品として高く評価されています。
店舗ではチーズの熟成庫を見学することができ、ジュディさん本人から製法やこだわりについて直接話を聞くこともできます。小規模ながらも品質管理は徹底しており、伝統的な手法と衛生的な生産環境が両立しているのも特徴です。アルト・ウルジェイ地方は、山岳地帯特有の気候と自然環境がチーズの風味に深く影響を与えています。豊かな牧草地で育つ家畜の乳は香りが高く、季節ごとに味わいの変化も楽しめます。フォルマッジャス・デ・ラバデッサのチーズは、そうした土地の条件を忠実に生かし、地域の食文化を受け継ぐ存在となっています。
ラ・セウ・ドゥルジェイは、カタルーニャ北部を巡るロードトリップのルート上にあり、アンドラ公国にも車で30分ほどでアクセスできます。周辺にはロマネスク様式の教会や地元の市場も点在し、地域の日常と文化を感じられる環境が整っています。フォルマッジャス・デ・ラバデッサは、観光で立ち寄るだけでなく、アルト・ウルジェイの“食の背景”を学ぶ場所としても価値のある工房です。職人が作り出す一つひとつのチーズには、ピレネーの自然と人々の営みが息づいています。
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photo:©plusroadtrip
